市川 荷風忌 における "荷風語り" の歩み 

長浜奈津子ひとり語り、おとがたり朗読とヴァイオリン

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永井荷風「風邪ごこち」 "おとがたり” 朗読とヴァイオリン動画撮影風景 長浜奈津子(朗読)/ 喜多直毅(ヴァイオリン)

以下 それぞれの写真を ダブルクリック すると、2016年から現在までの公演詳細の閲覧が出来ます。

SINCE 2016〜2017

SINCE 2018〜2020

第12回 荷風忌.jpg

<2020年5月・8月延期>

第12回 市川 荷風忌「にぎり飯」「春雨の夜」

2021年12月5日(日)予定(未決定)

 *イベント情報は確定次第、お知らせいたします。

春雨の夜 ​  永井荷風

「この白魚は大変うまい。おかわりを貰おうか。」
「どうぞ、沢山御座いますから。」
と老妻は給仕に座っている女中を見返って、「掻き回すと中のものが崩れますから丁寧によそっておいでなさい。」
「先代も晩年には白魚と豆腐がお好きであったな。老人になると皆そういうものかな。」

老人はそのなき父と母を思出す瞬間だけ老人はおのれの年齢を忘れて俄に子供になったような何ともいえぬ優しい心になる。けれどもそれは全くその瞬間のことだけのことである。老人はもう六十九、其の妻は五十九になった。(作品より抜粋)

 
にぎり飯 ​  永井荷風

 泥まみれのモンペをはき、風呂敷で頬冠をした若いおかみさんが、頭巾をかぶせた四五歳の女の子と、大きな風呂敷包とを抱へて蹲踞しやがんでゐたが、同じやうに真赤にした眼をぱち/\させながら、
「一寸伺ひますが東陽公園の方へは、まだ帰れないでせうか。」と話をしかけた。
「さア、どうでせう。まだ燃えてるでせうからね。おかみさん。あの辺ですか。」
「えゝ。わたし平井町です。一ツしよに逃出したんですけど、途中ではぐれてしまつたんです。どこへ聞きに行つたら分るんでせう。」といふ声も一言毎ひとことごとに涙ぐんでくる。
「とても此の騒ぎぢや、今すぐにや分らないかも知れませんよ。わたしも女房と赤ン坊がどうしたらうと困つてゐるんですよ。」
「まア、あなたも。わたしどうしたらいゝでせう。」とおかみさんはとう/\音高く涙を啜すゝり上げた。___________


 「あの、もう一軒、行徳に心安いとこがあるんです。そこへ行つて見やうかと思つてゐます。」
「行徳なら歩いて行けますよ。この近辺の避難所なんかへ行くよりか、さうした方がよかアありませんか。わたしも市川に知つた家がありますからね。あの辺はどんな様子か、行つて見た上で、考へやうと思つてるんです。もうかうなつたら、乞食同様でさ。仕様がありませんよ。」(作品より抜粋)

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